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 | 領域の概要
 
 従来のものづくりの方法論はすべて,材料となる物質の塊を外部から与えた情報に従って加工
 することで望みの形状を得るトップダウンのアプローチによっている.最近,これとは全く逆の
 方法論,つまり,物質を構成する分子そのものの性質をプログラムすることにより,その物質自
 身が望みのものに「なる」ボトムアップのアプローチが注目を集めている.分子そのものを設計
 し,分子の自己集合によって,原子分解能をもつ人工物を作り上げるこの方法論の出現は,もの
 づくりの歴史的転換点となることは間違いない.これにより,あらゆる人工物が分子レベルの精
 度を持つようになれば,生体機能を人工的に再構成できるだけでなく,分子レベルの自己修復,
 自己改変といったことが可能となり,医療,食料,エネルギーをはじめ,さまざまな分野への波
 及効果は計り知れないものとなるだろう.技術立国のほか生き残るすべのない我が国としては,
 今まさに起こりつつあるこのパラダイムシフトを先取りしていくことが必要不可欠であり,その
 ための新しい学術領域の確立,またそのための人材育成が急務となっている.
 
 本学術領域は,個別の材料やデバイスを「いかにシステムとして組み上げるか」に重点を置い
 て,人工的な分子システムを構築する方法論の創成を目指す新しい学術領域である.我が国の
 化学は世界的に見ても極めて高い水準にあり,分子システムのハードウェアとしては,すでに
 利用可能な要素技術が数多く存在している.しかし化学者だけでは,これらをシステムとして
 組み上げ,ネットワークとして機能させるためのソフトウェアの開発は困難である.そこで,
 ロボット工学の方法論を導入してこれらをシステム化し,従来の方法論では達成しえない「プ
 ログラム可能な人工分子システム」の実現をねらうのが本学術領域である.人工分子システム
 の構築は,学術的に極めて重要な研究対象であると同時に,医療,環境,食糧等,我々が直面
 している諸問題を解決するためのキーテクノロジーになりうるものである.
 
 
 
 
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