News Letter No.14発行いたしました

11月30日付けで、「分子ロボティクス」ニュースレター14号を発行いたしました。
巻頭言は、東京大学生産技術研究所の藤井輝夫先生です。
NewsLetter No14_Fujii

「ロボット工学の夢と分子ロボティクス」
 “部品一つ一つをくみ上げて、生き物のように振る舞う機械を作る”、ロボット工学の一つの夢である。何を隠そう私自身も海中ロボットの研究で博士を取得しており、15年ほど前まではロボットの研究を行っていた。その後、微視的な世界に興味を持ち、マイクロフルイディクスの研究を手がけて現在に至っている。この間、本領域の萩谷先生や村田先生とは研究でご一緒する機会もあり、ロボット工学の進展を横目で見ながら分子計算やDNAナノ構造等を使って何が出来るか、漠然とした問いを持ち続けながら過ごしてきた。
 さて、そんな中できいた新たなキーワードが「分子ロボティクス」である。分子をBuilding Blockにしてロボットを作る。当然、入力は分子であり、出力は分子であってもよいし、力学的な動作でもよい。分子を出力とする方が、おそらく広範囲に影響を及ぼせる。できることならば、役に立つ出力であって欲しい。などなどが、「分子ロボティクス」という言葉をきいてぱっと浮かぶイメージである。直感的に、これは面白い、と感じただけでなく、ロボット工学が進むべき一つの方向性であると理解するには時間はかからなかった。
 機械システムとしてのロボットは、主要な構造部材(機構)に加えて、センサデバイスやアクチュエータとしてのモータ、制御用のプロセッサなどを構成要素として組み立てられる。従って、通常ロボットの基本的な構造や形態は、それらの構成要素によって決まってくる。構成要素は、部品というより、どちらかといえば機能モジュールであり、中身まで分解して詳細に設計することはまれである。すなわち、ロボットをつくる上での設計の自由度は、機能モジュールのスペックや形態・構造に大きく左右されることになる。これが、いわゆる従来型のロボット作りにおいて、“なんとなく気に入らない”ところであった。つまり、特定のモジュールの制約から逃れて“自由にロボット作りができるBuilding Blockが欲しい”というのが暗黙の欲求であったように思う。
 さて、分子ロボティクスのコンセプトを私が正しく理解しているとすれば、まさにそれは”分子“をそのような究極のBuilding Blockととらえてロボットを作ろう、とするものであろう。分子を部品に使うと、それを制約するものはソフトウェアや配線、ネジ穴の配置、などではなく、物理法則そのもの、ということになる。したがって、我々は物理法則の支配を直接受けつつ、これを利用しうるような部品あるいは機能モジュールを考える必要がある。それこそが、分子ロボティクスの方法論につながるものだと言うこともできる。一方で、このようなロボットが実現できれば、物理世界すなわち実世界に適応した振る舞いが期待でき、これはまさに冒頭に述べたロボット工学の夢の一つの実現、ということになり得る。
 評価者として、勝手なことを書き連ねて来たが、本領域に望むことは、一例でも構わない、分子でできた機能モジュールのインテグレーションを是非とも実現していただき、「分子ロボティクス」の、できることならば普遍的な方法論の先駆けを創出していただくということである。ここで私が言うまでもなく、すでにその一部は完成しているものと思うし、また多様や専門分野から大変優秀な研究者の皆さんが本領域に参画しておられることを踏まえれば、決して不可能なことではないと確信している。