名古屋大学大学院理学研究科の 田中 駿介 博士前期課程2 年、林 真人 研究員、瀧口 金吾 講師、同志社大学生命医科学部の 中谷 真規 大学院生、作田 浩輝 大学院生、吉川 研一教授、三重大学大学院工学研究科の 湊元 幹太 准教授らの共同研究グループは、数種類の高分子が混雑する溶液の中で、高分子同士が分離を起こして細胞サイズの微小な液滴を形成する条件の下、2 つの異なる天然の高分子(ポリマー)であるDNA とアクチン線維が液滴の内部に自発的に局在化し、細胞内の構造に似た区画化が起きることを明らかにしました。
その成果をまとめた論文が、国際科学雑誌ChemBioChem 誌のオンライン版に2018 年4 月19 日付けで公開されましたが、この度、Very Important Paper の1 つに選ばれ、研究内容を紹介するイラストがChemBioChem 誌の2018 年19 巻13 号の表紙に掲載されます。
雑誌名:
ChemBioChem 2018, 19 (13), 1370-1374.
論文タイトル:
“Specific Spatial Localization of Actin and DNA in a Water/Water
Microdroplet: Self-Emergence of a Cell-Like Structure.”
著者:
Naoki Nakatani, Hiroki Sakuta, Masahito Hayashi, Shunsuke Tanaka, Kingo
Takiguchi, Kanta Tsumoto, Kenichi Yoshikawa.
論文本文DOI:10.1002/cbic.201800066
雑誌表紙DOI:10.1002/cbic.201800297
論文の詳細:
・数種類の高分子が混雑する溶液の中で、高分子同士が分離を起こして細胞サイズの微小な液滴を形成する条件の下、DNAとアクチン線維が液滴の内部に自発的に局在化し、細胞内の構造に似た重層的な区画化を起こすことが見出されました。
・この発見によって、水溶液内で微小で重層的な区画化構造が形成され、維持されていく機構、即ち、細胞内における細胞内小器官の形成や膜によって隔てられていない構造が生み出される仕組みの起源の一旦が明らかになりました。
・細胞内の高度な組織化がどのような機構で行われているのかは不明でしたが、本研究結果は、細胞内の混雑環境が細胞内小器官を含む細胞の自己組織化を創り出す要因となっていることを示しました。
・ DNAもアクチン線維も、分子ロボットの構築に利用される天然生体高分子です。従って、今回見出された液液相分離系を介した高度な高分子の局在化が、分子ロボティクスの発展に貢献することが期待されます。
・ 特に、本研究で用いられたどの高分子、PEGやDEX、DNA、アクチン線維も、特異的な相互作用を互いに示さないことが挙げられます。このことは、生化学的な結合を想定するこれまでの仮説には無い特徴であり、非常に重要です。
これらの知見は、濃厚環境での生体高分子の在り様、細胞内に観察されるような重層的に区画された領域の形成や細胞内小器官の形成、特に膜によって隔てられていない構造の起源の一旦を明らかにした成果です。
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